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バトンをつなぐ freetalk
震災を乗り越えてより良い遊び環境をつくりたい
子育て家庭の声を活かした遊び環境創造に向けて
|生活経営|エンパワメント|福島原発事故|子ども|遊び環境|
日本女子大学 佐藤海帆
福島からの発信
はじめまして、日本女子大学の佐藤海帆です。金沢大学の花輪さんよりバトンをいただきました。
私は、福島県いわき市の出身です。いわき市は、別名「東北のハワイ」ともいわれており、東北地方のなかでは比較的温暖で、緑が多く、海に面した自然豊かな地域であり、子どもが遊び・生活していくうえでは恵まれた環境だと思います。
しかし、2011年の東日本大震災を機に、子どもの生活環境は一変しました。震災当時、いわき市に住む4ヶ月の親戚の女の子が、2011年6月の内部被ばく検査で、医師に「外に出ないで」と言われました。その子は、転んで手を地面につき土や砂利を口に入れてしまう不安もあったため、外で遊ぶことはせずに幼稚園に入るまでの時期を過ごしました。
その話を聞いて、子どもたちが放射線の影響を受けずに遊べる環境を整えるにはどのようなことが必要か、自分にできることは何かを考えるようになり研究を始めました。
写真1 いわき市内の公園に設置されたリアルタイム線量測定システム
写真2 郡山市内の屋内遊び場内の砂場
福島の子どもの遊び環境
震災後のいわき市では、放射線への心配により、屋外での遊び時間は約半分になり、特に自然の中での遊びが減少しました。子どもの遊びの制限により、子育てへの不安や将来への心配も増大していきました。
そこで、子どもたちが放射線の影響を受けずに遊べるように、いわき市では主に3つの柱による対応がなされてきました。それは、
①屋外の除染(公園や園庭など子どもの生活空間)
②屋内遊び場の整備
③保養の機会の提供
です。
従来の屋外遊び場の代替として整備が進められた屋内遊び場は、子育て家庭の生活の変化につながっています。具体的には、子育ての心理的負担を軽減するだけでなく保護者が安心感を得たり、「自分たちが利用する屋内遊び場は自分たちも一緒に良くしていこうと思う」というように、ともに子どもの遊び環境をより良くしようとする生活の変化もみられています。
さらに、放射線の影響を避けながら、自然体験活動を通して心身の健康を保ち、生きる力を養う保養への参加も、子育て家庭の生活の変化につながっています。具体的には、子育て中の「ほっと一息つく時間」につながったり、「自分たちが参加する保養プログラムは自分たちも一緒に良くしていこうと思う」などの生活の変化がみられています。
より良い遊び環境の創造に向けて
震災から10年が経過し、子どもの遊び環境の回復が進んできている一方で、自然の遊び環境は回復しきれておらず、遊び経験の保障が十分になされていません。さらに、新型コロナウイルス感染症についても心配する声が多く、遊び環境は二重苦に直面しています。そのため、子育て家庭の意見を取り入れながら遊び環境を創造していくような、子育て家庭に寄り添った継続的な支援が大切だと感じています。
これからも、自らの育ってきた福島県の子どもの遊びや生活環境の改善に関わりながら、復興の過程におけるより良い環境創造の実現に向けて、その社会的支援モデルを提言できるよう、研究と実践の面から地域ひいては社会に貢献をしていきたいと思います。
最後になりますが、約10年にわたり、ご協力くださっている幼稚園・保育園・保護者の皆様に厚くお礼申し上げます。
佐藤 海帆(さとう みほ)
日本女子大学 家政学部 家政経済学科 助教。専門は、生活経営学。福島県いわき市出身。子どもの遊び環境や生活環境を把握し、より良い遊び・生活の実現に向けた生活資源マネジメントや社会的システムのあり方を探る。特に、福島原発事故後の幼児の遊び環境回復に関心をもち、これまで福島県の幼稚園や保育園に通う子どもの保護者延べ約8,000名への調査を行い、自治体やNPOとの情報共有を行っている。