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バトンをつなぐ freetalk
子どもが生存する場、生活する場
こどもがワクワクできるまちのしくみを探究しています
|生きること|住むこと|遊ぶこと|
兵庫教育大学大学院 花輪由樹
◆京都・兵庫からの発信
みなさん、こんにちは!福井大学の西本さんからバトンをいただきました、兵庫教育大学の花輪です。平日は兵庫の古民家シェアハウス(写真1・2)に住みながら、週末は京都に暮らすという二拠点の生活をしています。本や資料、服、化粧道具など、あれはどちらの家にあったかな?と考えながらの日々も3年目を迎えました。
写真1 古民家シェアハウス
写真2 古民家シェアハウスの囲炉裏
なぜ二拠点で暮らしているのか、と聞かれることも多いのですが、私は大学で家庭科教育における住居学の授業を担当していることもあり、「住む」とはどういうことか、それを思考するための実験の場として自分の住まいを捉えています。
シェアハウスには0歳児と3歳児のファミリーもいて、ひょうきんでいたずらっ子の3歳児は両親から怒られることもありますが、住人に助けを求めては、日々、喜怒哀楽の顔をみせています。色々なパーソナリティの人に出会うことは、自分のあり方を調整する社会化の過程に重要1)といわれますが、このような皆で寄り集まり住みあう環境は、大人にとっても人間性や暮らしのあり方を深めていくのに最適な環境といえます。
◆生きること 住むこと 遊ぶこと
自分が身を置きたい場所からインスピレーションを得て、大事にしたい価値観を得ていく、その循環が「生きること」であり、「住むこと」であると思っています。
大人になると自分が住む場所はある程度選べるものですが、子どもの時はどうでしょうか。運命的に定められた場所が、住まいとなります。
私にとって運命的に定められた場所は、神奈川と山梨でした。小学校までは神奈川の登戸で過ごし、中学校からは両親の故郷であるフルーツ王国・山梨の南アルプス市で暮らしました(写真3、4)。当時の子ども目線では、狭いマンションでの神奈川暮らしに比べて、戸建ての広い家で自分の部屋もある山梨での暮らしには夢が膨らみました。スケールの大きい場に自分の身を置けたことは、退屈さをしのげて、思考の幅を広げてくれたように思います。
写真3 山梨の葡萄畑 写真4 山梨の桃畑と富士山
子どもの場合、自分の意思とは関係なく「住む場」が既定されると、「どのように生きるか」もある程度決められてしまいます。大人であっても、自分で住む場を選べず、運命的に定められた場所に住んでいる人もいることでしょう。自ら住まいを選べる人と、そうでない人との間には、住まい方と生き方の関係性が違うようにみえます。でも子ども達は、たとえ住む場を選べなくても、自分にとってワクワクする場を見つけ、そこでの時間を日々の生活の中に取り入れていきます。つまり、遊びの資源を把握し、どう遊びたいかを、今の環境の中でマネジメントしているのです。実は、誰しもがこのような遊びのマネジメントをしているのではないでしょうか。
◆子どもが生存する場、生活する場
もし子どもが自分で住む場所を選べるとしたら、どこを選ぶでしょうか。ディズニーランドやゲームセンター、または海の中に住みたいなどと言いだすでしょうか。子どもにとってワクワクできる環境を確保するということは、住む場を自ら選べない子ども達への「居住の権利」の保障といえます。それを保障する際には、何がその時の子ども達にとってワクワクするのか、耳を傾ける大人の姿勢も重要になることでしょう。
単に生き延びる「生存の場」として子ども環境を捉えるのであれば、そこまで考えなくてもよいのかもしれません。でも、よりよく生きる「生活の場」として子ども時代を過ごせるようにと願うからこそ、大人達の創意工夫が試されていくのです。
私は、1979年よりドイツのミュンヘンで始まった、子どもがまちをつくる「遊びの都市」2)を研究しています3)4)5)6)。ここでは、子ども達が好きな仕事をして給料をもらい、好きなモノやサービスを購入したり、街を変える市民活動を行ったりするなど、自分がやってみようと思って行動したことがマチのあり方に反映される仕組みが面白いなぁと思い注目しています。
2018年のMini-Münchenでは、飛行場を作るという案を実現するために大使館ブースが中心となって、飛行機の製作やパイロットの免許の仕組み、旅行プランなどが練られていきました(写真5)。
また市議会には治外法権を求めたMicro-Münchenが出現し、Mini-Münchenとは異なる通貨やルールが登場する動きもありました(写真6)。
写真5 Mini-München2018の飛行場ブース
写真6 Micro-Münchenの登場
日本では1997年に高知県香北町で一時的に開催され、2002年に千葉県佐倉市や宮城県仙台市で継続的に実施されるようになると「こどものまち」として広まっていきました。現在日本には300地域ほどでの開催が確認されているようです。
子どもがワクワクした想いを持って地域に関わりつづける場があることは、たとえそこが与えられた運命的な場所であっても、生き生きと暮らす住まいに自ら変えていくチャンスが提供されているといえるのではないでしょうか。その意義を伝えていく教育・研究活動をこれからも行っていく予定です。
次は、私と同じ家政学の関係者でもある日本女子大学の佐藤海帆さんにバトンをつなぎたいと思います。
参考文献:
1)住田正樹編『子どもと地域社会』学文社,2010年
2)ミニ・ミュンヘン https://www.mini-muenchen.info/
3)花輪由樹 「遊びの都市」における住教育に関する研究―「こどものまち」と「Mini-München」の日独比較を通して―」『第7回児童教育実践についての研究助成事業―研究成果論文集―』 161 – 186, 2013年10月
4)花輪由樹「第5章 遊びのスローライフ」『楽しもう家政学』 家政学のじかん編集委員会,開隆堂出版,2017年4月
5)花輪由樹「Mini-München 2018 にみる 「コトナ」のつなぐ世界」『こども環境学研究』 vol.14(no.3) 18 – 20, 2018年11月
6)花輪由樹「「こどものまち」と家庭科教育との繋がり」『「こどものまち」の足跡 たいけん!はっけん!ほっとけん!』こどものまちの足跡編集委員会,2018年12月
花輪由樹(はなわ ゆき)
兵庫教育大学大学院 学校教育研究科 助教。専門は家庭科教育における住居学。子どもが地域づくり・まちづくりに関わることが、生活者として生きる上でいかに重要であるかを、「遊びの都市」を事例に探っている。これまでドイツのMini-Münchenには2010年より毎回訪れており、日本の「こどものまち」も累計81ヶ所の調査を行っている。