世界のこども環境

身近な自然の中で遊ぶ:ストックホルムの遊び環境

 

子どもたちのライフステージに従った変化やニーズを受け止める遊び場の多様性

|スウェーデン・ストックホルム|ライフスタイル|身近な自然|遊び場|

森であそぼうin Stockholm(Ekomoriclub)
阿久根佐和子

     
 日本の1.2倍近くある国土に、1000万強の人口しか住まないスウェーデン。その首都ストックホルムは周辺の地方自治体を含み、常に人々を惹きつけ、8分の1程度の人口が集中し、スウェーデンの他の地域とは異なり、東京同様の都市型生活様式を特徴とする大都市圏を作っている。ふと気づくと住宅の隙間を埋めるようにあった緑の回廊が住宅地に置き換わったり、水際の埋め立て地に高層住宅が林立するような開発の進む地区が現れたりしているが、街の様相が変わりながらも家から100メートルも歩けばどこかに自然にふれて子どもたちが遊べるような場所が確保されている。

 ストックホルムで様々な自然観察・野外活動に加わり、子どもたちが自然環境の中で自分の興味で遊ぶという状況を作り出す現場に関わり続け、今では自分でも野外で遊びから気づきへ繋げられるような活動を運営している1)。それが成り立っているのも実はそういった場が社会の中に様々な形で存在すればこそだというのを、最近子ども・若者の声をいかに遊び場づくりに反映させるかという大学でのコースに参加し2)、公園づくりの意味と中身を知ったことで実感するようになった。

 ストックホルムの40%は緑地部分と言われているが、それには元々の緑地や自然を含むように計画して作られている多くの公園や園庭・校庭などがふくまれている。公園には人々のニーズや地域の特色に合わせて様々な特色を持つものが400前後あるが、その大半は住居から50m圏内にある小規模な公園、集合住宅の1区画に設えられている中庭にある遊び場、ベビーカーで辿り着きやすい中規模の公園といったものだろう。(写真1)

(写真1)住宅地の中のオアシス(Parkleken Lugnet)


労働年齢期の女性は80%以上が中断することなく働き続けている。その家族の子どもは、就学前学校が始まる1歳半前後まで、育児休業制度を利用する母・父親と濃密な時間を過ごす3)。そして、近隣の公園、自然の中の遊歩道に出かけていくことは、気分転換、子育てへの情報交換、すぐに迫ってくる職場復帰への態勢づくりなどには大切で、ベビーカーに乳児を乗せて公園を訪れる人々の姿を街中でよく見かけることになる。

 その濃密な家族だけの時間は、1歳半前後から保育所・学童・学校4)といった保育・学びの場で過ごすことに置き換わり、そこが子どもたちの日常の遊びの場となってくる。15時半前後から始まる子どものお迎え以降は家族の時間で、家に帰る前に公園に寄って一遊びすることも多い。スウェーデンの学習指導要領では自然の中で過ごす大切さが様々な形で触れられており、子どもたちの遊びの場ともなる保育・学びの場では、低学年期は休み時間を外で過ごすことが主となったり、授業・活動を屋外で行う実践5)が積み重ねられている。
自然環境の乏しい保育・学びの場では、近くの公園や緑地を園庭・校庭の延長として積極的に利用する。都市環境のために子どもが自分の意思で自由に移動して遊ぶことは難しく、子どもたちが自然の中で過ごすことを保育・学びの場が代替してくれることを評価する保護者の声が聞かれる。
 子どもが遊ぶ校庭や公園などと重なり合う様に拡張していく住宅地の問題を、子どもたちからの意見や行動範囲を調査し取り入れることで、計画を練り直し、住宅の身近な遊びの場・校庭の遊び場・プレイパークのある中型公園と緑地をうまく重ね合わせて作り出された地域もある6)。(写真2)

(写真2)右-中央の住宅と隣り合う学校(Aspuddens skola)

 

 子ども・家族に身近な自然の中に飛び込み、その遊び場の豊さを知ってもらう事を企画する立場では、日常の遊び場よりも住居の外縁にあるような自然保護区7)や休養林といった変化に富む自然環境を利用することが多い。参加者の年齢・人数・季節・目的といったいろいろな要素に対応する、まるで「ここで遊んで!」と誘いこんでくれるような多様で練られた公園の多さ、年代を問わず人々の様々なニーズを吸収してくれる管理された自然保護区のような自然環境などの多くの選択肢があることは、家族の時間を大切にするライフスタイルと絡んで子どものみならず全ての人々の遊びを豊かなものにしてくれる。(写真3)

(写真3)ストックホルムの1 番目の自然保護区(Judaskogen)にて


1)森であそぼう(Ekomoriclub): https://ekomorimoririn.wordpress.com/
2)SLU(スウェーデン農科大学): Public space for children and youth
3)SCB, 2020,På tal om kvinnor och män. Lathund om jämställdhet 2020.
4)スウェーデン表記:Förskola(就学前学校) - 保育所、Fritidshem(余暇の部屋) -学童、Grundskola(基礎学校)-学校
5)Szczepanski, Anders. Persson, Ulla-Britt. Åkerblom, Petter 2018, Teaching with the Sky as a Ceiling, Linköpings universitet.
6)Nordström,Maria. 2017, How are Child Impact Assessments used in planning child friendly environments? The Swedish experience, Queensland University of Technology.
7)Naturreservat:https://parker.stockholm/naturreservat/

 

 

阿久根佐和子(あくね さわこ)


インド留学中に乗った飛行機で、隣に座ったフィンランド人保育士(夫)と知り合い、
1989年よりストックホルムに在住しています。
自然と人間の関りに興味があります。仕事の傍ら野外教育活動を余暇に実践し、国民高等学校で余暇活動指導員の資格を取得後、野外活動主体の学童で働きました。
野外活動と自然観察活動の経験を基に、2013年より日本人家族対象の遊びを通じて身近な自然を知る「森であそぼうin Stockholm」を運営しています。