ブック&シネマレビュー

書評『持続可能な社会をめざす0歳からの保育』

環境教育・持続可能性な開発のための教育というと小学生の学習課題だと考える方が多い中、著者は0歳から行うことが重要だと主張している。その根拠となっているのは著者が取り組んできた10年にわたる登美丘西こども園での実践研究である。この詳細な記録こそがこの著作の重要なポイントとなる。園長・主任の協力があったとはいえ、他の保育者の意識を変えて園全体の取り組みへと広がっていく過程が、その苦労と共に明らかにされている。その結果、保育者の取り組みにも変化が生まれ、何よりも毎日の生活の中で子どもたちが変わり、保護者さえもが変化していくことが分かる。ここにこそ著者が知識ではなく行動の変化を起こすため、環境教育や持続可能性のための教育は0歳児からの取り組みが重要であるとの主張がある。実践研究のエビデンスとはこのような活動であると研究者は襟を正して読んで欲しい好著である。なおかつ実践家にとっては大変分かり易い手引き書となっている点にも注目である。

 (聖徳大学 神谷明宏)

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タイトル 持続可能な社会をめざす0歳からの保育 環境教育に取り組む実践研究のあゆみ

著者  井上美智子,登美丘西こども園

価格  2,200円(税別)

出版社 北大路書房 

ISBN   978-4762831225

発行年 2020年9月24日

サイズ(書籍の大きさ) 25.7 × 18.2×2 cm/156p

リンクURL http://www.kitaohji.com/books/3122_5.html

書評『亜種の起源 苦しみは波のように』

ダーウィンの進化論を通して、競争、淘汰が人間生活、社会原則まで影響を及ぼし、生命科学が遺伝子という暗号を解く中、既に人生が決められているような錯覚を覚え、機械主義が進化する中、AIの世界で人間が矮小化してしまうのではないか。

生存競争に有利な種が進化の中で生き残ったのではなく、多様な個性をもった亜種が互いに同調したり、同期したり、時にそれを解消する中で彩りに満ちた自然が創出されたのだ。それを生命科学者・桜田氏は「協創」という概念にまとめ、「考えること」と「感じること」を融合させることに科学の役割があると主張する。

健康に人生を全うするのに必要なのは「知的な才能」や「両親の社会的地位」ではなく「人生を満足させるものにする力」だ。人生最初の数年間に親や近しい人と「信頼関係」を築ければ、人は未来を信じ、現在の試練を克服できるようになるという。

「日本社会は新時代に合った子育ての姿を描けず、母親は孤独に子育ての方法を手探りで探さねばならない」「人生は相手の心を心で想うことで生成する。だから彩りのある社会は操縦や、支配からは生まれない」と論じ、「協創」の重要性をこどもの成育環境にも普遍している。「競争」から「協創」へ、進化主義、機械主義の先には絶望しかない。

(東京工業大学名誉教授 仙田 満) 

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タイトル 亜種の起源 苦しみは波のように

著者  桜田一洋

価格  1,500円(税別)

出版社 幻冬舎 

ISBN  978-4344036680

発行年 2020年9月17日

サイズ(書籍の大きさ) 19cm/213p

リンクURL  https://www.gentosha.co.jp/book/b13286.html