ドイツの公園づくり|難民のこどもたち

公園づくりにおけるドイツのこどもの参画 こどもミュージアムで見えるベルリンの多様性

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Creative Atelier GmbH / Labyrinth Kindermuseum Berlin 桂川 茜

 

 こんにちは。ドイツのベルリン在住の桂川です。遊具製造会社に属するデザインスタジオとこどもミュージアムで働いています。早くからこどもへの政治教育が始められ、様々な分野でこどもの参画が取り入れられてきたドイツでは、公園や遊具の計画にも頻繁にこどもが参画しています。

 

こどもの参画

 ドイツでは、1920年代から政治教育の中でこどもや若者の参画が唱えられてきました。その後、家庭や学校の中でも、こどもの意見に耳を傾けることが徐々に重要視されるようになり、1992年にドイツでも国連こどもの権利条約が承認されてからは、こどもの参画の権利がいろいろな場面で真剣に捉えるようになりました1)。「こども・青少年支援法(KJHG)」2)という法律によって、地域・学校・公園・家庭など、こどもや青少年が関わるあらゆる場所において、施設やサービスを選ぶ権利が守られ、こどもと青少年の参画と共同決定は、彼らの育成活動の基礎であることが定められています。

 

公園・遊具デザインにおけるこどもの参画

 公園や校庭の計画の場面でも、こどもが参画するケースが多く見られます。市や区ごとの「こども・青少年課」、学校、ユースクラブなどにこどもたちが集まり、アイデアを出したり、スケッチを描いたり、モデルを作ったりしたものが、私たち遊具製造会社に届き、それを元に、安全基準を満たす遊具をデザインしていきます。その例をいくつか紹介させていただきます。


フライドポテト公園 − ベルリン
https://www.youtube.com/watch?v=sEQGVDhhJc8

 このプロジェクトでは、地域のこどもたちが、新しく建てられる公園のためのアイデアを出し合い、「テーマ : 食べ物」「遊具 : 大きい滑り台・ブランコ・バランス・水遊び」などといった条件が遊具メーカーの元に届きました。数社がモデルを提出した中、私たちは動画の一番初めに出てくるスパゲッティ公園を提案したのですが、こどもたちの審査によって、他社のフライドポテト公園に決まりました。

チーズドーム公園 − マクデブルク

 こちらのプロジェクトでは、この公園の近くの3つの小学校に通うこどもたちが、学年ごとにアイデアを出し、スケッチを描き、体育器具でモデルを作りました(写真1,2,3)。モールや紙でモデルを作ることは多いのですが、全身の動きを使ってモデルを作りながら出てきたアイデアはダイナミックで、多様で、とてもおもしろいプロジェクトでした。これを元に提出したデザインは市の大人たちによって審査されるそうで、2021年夏現在、結果待ちの状態です(写真4)。

写真1 こどもたちによる遊具のスケッチとモデル ①

写真2 こどもたちによる遊具のスケッチとモデル ②

写真3 こどもたちによる遊具のスケッチとモデル ③

写真4 こどもたちのアイデアを元にした公園のデザイン

コリブリ小学校

 こちらの校庭のための遊具のプロジェクトでは、この小学校に通うこどもたちのアイデアを元にデザイン画を作り学校に送り、それを見たこどもたちからの意見を元にデザインを作り直し、再度送られてきたフィードバックを元に更にデザインを作り直してと、何度もやり取りを重ねてきました。コロナ禍で休校になったり授業が縮小されたりしてなかなか進まず、こちらも進展を待っている状態です(写真5)。

写真5 こどもたちのアイデアを元にした校庭の遊具のデザイン

 

 自分たちも参加して公園や校庭を計画する過程で、こどもたちは、能動的に主体的に取り組み、自分のアイデアや考えを表現したり、他のみんなの意見や考えを受け入れたり、一緒にひとつのものを完成させていくことを学べる機会となります。また、自分たちが主体となることで、「自分たちの遊び場」「自分たちの地域」という感覚を持つことができ、完成後も大切な場所となっていくでしょう。

 

こどもミュージアムで遊ぶ多様なこどもたち

 私は、ベルリンのこどもミュージアムでも働いています。ベルリンは国際色がとても強く、多様性に富んだ街。また、ヨーロッパ各国や他の国から多くの家族連れが遊びに訪れます。こどもたちは、お互い言葉が通じなくても遊びながら仲良しになる場面も多く見かけ、「遊びの力」を実感させられます。

 多くの移民・難民がドイツに来た2015年には、こどもミュージアムに難民のこどもたちがたくさん来ました。年齢も出身の国や地域も様々で、ドイツ語が少し話せた子や、全く理解できなかった子もいました。その多くのこどもたちにとって、こどもミュージアムのような場所は初めてで、喜びと好奇心でキラキラした瞳で思いっきり遊んでいた姿がとても印象的でした。

 移民でなくても、大なり小なりトラウマを持ったこどももいるし、移民でもそうでなくても、こどもはこども。恥ずかしがり屋の子もいれば、好奇心旺盛な子もいれば、やんちゃな子もいる。どんなことを経験してきたとしても、せめて、ここにいる間だけでも、遊びに没頭して、思いっきり楽しんでほしい。私たちは、ひとりひとりを見守って、楽しく遊べる環境作りに徹します。
 元々ドイツ語圏外から来るこどもたちも多いので、言葉が通じないのはよくあること。この頃は、ドイツ語がわからなくても参加できるような、体の動きを使った遊びやワークショップを通常以上に多く取り入れました。ただ、こどもたちがどのような過去を背負っているのかは分からないので、体に触れないことを普段以上に心がけていました。

 遊んでいる中で、こどもたちが、ぽつり、ぽつりと、自分の気持ちや体験したことについて話してくれることもありました。
 あるとき、男の子数人のグループとおしゃべりしながら遊んでいると、ひとりの男の子が、

「なんでドイツに住んでるの?あなたの国も戦争してるの?」

 私はしばらく言葉を失ってしまいました。その男の子はシリアからの難民で、お父さんとお母さんと妹とドイツに来たそうです。おじいちゃんやおばあちゃん、他の親戚も友達もみんなシリアにいて、「会いたくても会えない、帰りたくても帰れない」と。自分の国が戦争をしていないのに、なんで家族がいる自分の国に帰らないのか、と。覚えたてのドイツ語でぽつりぽつりと話してくれた後、ふっと黙ってから、ぱっと立ち上がって走って行ってしまいました。 

 またあるとき、7歳の女の子がお絵描きをしながら、ドイツに来るまでに溺れそうになったことを同僚のスタッフに話してくれたこともありました。たくさんの人たちと一緒にぎゅうぎゅう詰めで乗っていた小さなボートから地中海に落ちてしまって、波に飲み込まれて、もうダメだと思ったところで誰かがボートに引き上げてくれて助かった、と。そのスタッフはその女の子と、不安や恐怖、勇気について話し、絵を描いているうちに、少しずつ表情が和らいできたそうです。

 この頃の参加体験型展示は、「こどもがつくるまち」がテーマのもの(写真6)で、街の中にあるようなタイヤ付きの大きなゴミ箱を設置していて、こどもたちが中に入って自由に遊べるようになっていました。ある日、7歳くらいの男の子がゴミ箱の中に入り、10歳くらいの男の子がそれを押して遊んでいたのですが、そのうち、「殺してやる、早く死ね」というようなことを言いながらゴミ箱の蓋をドンドンと叩き始めたのです。中にいる男の子は「開けて!息ができない」と泣くような声で助けを求めていたのですが、その子は叩くのをやめず、私たちスタッフが止めに入りました。すると男の子は我に返ったように「遊んでいただけ」と言ったのですが、ゴミ箱の蓋を叩いていたその子の目には強い怒りと恐怖が見えたので、心の傷と闘っていたのだと思います。その子たちと来ていたソーシャルワーカーの方に聞くと、このふたりの男の子たちは故郷とドイツに来るまでの間にとてもひどい体験をしてきたとのことでした。

© Labyrinth Kindermuseum Berlin

 

 こどもミュージアムに来て楽しそうに遊んでいる難民のこどもたちは、それでもまだ幸せなこどもたちです。難民のこどものための施設で働いている友人や知り合いと話していると、それを強く思います。

 私は、こどもたちのキラキラの瞳や笑顔、話してくれた経験や想いから多くのことを学ばせてもらいました。私のこの経験を、一部ではありますが、日本でこどもたちのよりよい環境のために奮闘されている方たちにこのような形で届けさせていただけることに感謝いたします。


1)https://www.kinder-beteiligen.de/partizipation-kinder-jugendliche.htmより
2)Kinder- und Jugendhilfegesetz。日本語では、「子ども・若者支援法」「児童・少年援助法」とも。ここでの「Kinder/こども」とは、14歳未満、「Jugend(Jugendliche)/青少年」とは、14歳以上18歳未満。


 

桂川 茜(かつらがわ あかね)

 

福井県出身。 2007年渡独、2015年よりベルリン在住。 ドイツ・ハレの美術大学で遊びと学びのデザインを学んだ後、こどもミュージアムにて遊びと学びのデザイナー兼ファシリテーター、遊具製造会社にてデザイナーとして働いている。