カテゴリ:2020冬

子どもの声を聴く社会を築くために

子どもアドボケイトを知っていますか

|子どもアドボカシー|子どもコミッショナー|子どもの権利| 意思表明権|

子どもアドボカシーセンターNAGOYA代表理事
奥田陸子

子ども・若者の声が社会を変える
子どもの言葉や行動にハッとさせられたことのある大人は多いと思う。そう、子どもは大人が忘れてしまったような新鮮なものの見方、発想力の持ち主なのだ。その子どもらしい発想力が引き出せれば、大人も幸せになり、社会は変わるだろう。

コロナウイルスの蔓延に伴い、世界中が大騒動しているが、これを機に、子どもたちも変わってきている。自分の頭で考え、自分の言葉で意見が言える子どもたちは、大人に向かい合って自分たちの考えを言葉にし、それを通して、よりよい未来をつくることをあきらめがちな大人たちに、「そんなことはない」、「社会は変えることができるんだ」というお手本を、あちこちで示し始めている。

東京都板橋区の小学生チーム「ザ・レッドムーン」が「サッカーできる場所がなくて困っています」と区長に陳情した結果、区議会で慎重に協議され、子どもたちの願いが一部採択されたという事例をWEBで読んだ。兵庫県南あわじ市の神代小学校では、市が決めた運動会中止の理由を理解はしながらも、例年通りの運動会はできなくても工夫して自分たち流のやり方で運動会を実施したいと、大人を説得して、やりたいことを成し遂げたという事例も、テレビで見た。これらの事例はほんの氷山の一角に過ぎないことは想像に難くない。NHKのテレビ番組で紹介されたZ世代(ゼット世代)注1)も、どちらかというと並みの子どもからはみ出した子どもや若者がITを駆使して世界中に仲間を増やしていった事例であった。
もう20年も前に私が関わって日本に紹介した『子どもの参画―コミュニティづくりと身近な環境ケアへの参画のための理論と実際』注2)にも、大人といっしょに子どもや若者が社会を変えていった海外の事例が紹介されているが、それらに匹敵するような事例が日本にも広がりつつあることをうれしく思っている。

子どもの意見表明権行使を助ける「子どもアドボカシー」制度
一方で、いじめや虐待、貧困、親の病気などで苦しんでいる子どもたちも少なからずいるが、その子たちは自分の気持ちを声に出せない、意見を表現する言葉も持たないことが多い。そういう子どもたちが、誰かの助けを受けることで自分の気持ちや意見が表現できるようになれば、その子たちが抱えているいじめや虐待その他の問題の解決にどれだけ貢献でき、前向きな明るい社会を実現できるか、想像するだけで気持ちが明るくなる。
日本の政治の世界でも、動きが出始めた。塩崎元厚生労働大臣が声をかけて、「子ども基本法」の試案、立法化に向けて議員たちの勉強会が開かれたと聞く。議員さんたちが子どもの福祉ばかりでなく教育の分野でも現状や子どもたちの実態を知り、対策や制度改革を真剣に考えてくれるようになれば、日本社会も変わることが期待できる。

すでに、福祉分野では、子どもアドボカシー制度が日本でも広がり始めた。「子どもアドボカシー」とは、

1)子どもがその時に言いたいこと(願い)や気持ちを、誰かが大きな声でわかりやすく(マイクになったつもりで)人に伝えること

2)子どもが自分の声で言える時は、それを励まして、できるだけ子ども自身の声で人に伝えるように支援すること

3)子どもの生活や将来に影響が及ぶ大事なことを、大人たちが決めようとしている場で子どもが声をあげられない場合、大人が子どもの代理者(アドボケイト)になってその子どもの意見を人(おとな)に伝える人およびその行為

などを指す。声に出す場合だけでなく書類に書きこむ場合もこれに準ずる。

子どもの権利を守り進めるために
私は、ここで、英国の子どもコミッショナーのこともお伝えしたい。これは、子どもの権利条約を批准した英国の機関であり、国内の子どもの権利の実情を把握し、調査し、それを全国の人に知らせると同時に、子どもの権利実現をさらに進めるための政策提言を行う役割を担う。私はこの英国子どもコミッショナーのことを設立当初からずっと注目してきた。英国では、この「子どもコミッショナー」と「子どもアドボケイト」が車の両輪として機能していることを見てきた。願わくは、日本も子どもの権利を守り進めるために英国のような進め方を取ってほしい。

 

注1 NHKテレビ番組「Zの選択」HPによると、Z世代とは、現在25歳以下(1995年以降生まれ)のジェネレーションのことで、物心つく頃からデジタルもSNSも使いこなす“ソーシャルネイティブ”と呼ばれる世代を指し、新しい価値観を持つと言われている。
注2 ロジャー・ハート著『子どもの参画―コミュニティづくりと身近な環境ケアへの参画のための理論と実際』木下勇・田中治彦・南博文監修、IPA日本支部訳、萌文社、2000年

 



奥田陸子(おくだりくこ)
名古屋市在住。1988年から子どもの遊ぶ権利のための国際協会(IPA)の日本支部の会員として活動してきた。現在子どもアドボカシーセンターNAGOYA」代表理事。