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特集記事
《特別寄稿》新しい生活様式を画一的でなく、年齢層毎の行動指針を
― 休園、休校を早急に解除すべき ―
こども環境学会代表理事
東京工業大学名誉教授
仙田 満
年齢層ごとの行動ガイドラインを作ろう
|こどもの安心|アタッチメント|新しい生活様式|
コロナウィルスの問題は命か経済かという二者選択の議論が多くなされているが、こどもという重要な視点を忘れてはならない。教育や成育が脅かされている休校、休園を早急に解除すべきである。こどもの1日、1週間、1ヶ月、1年は大人のそれとは重さが異なる。福島原発事故の影響を見れば理解できるだろう。
こどもの成長において密接は重要である。こどもは触れ合うことによって成長していく。体を接触させることによりさまざまな感覚を発達させていく。多くのスポーツも体を触れ、ぶつけ合う。こどもにとってあそびは「まなび」なのだ。人間のさまざまな力はこども時代に育まれる。その機会を奪わないで欲しい。
コロナウィルス感染症は高齢者が重症化しやすいと言われている。従って高齢者が感染のリスクを避けるために、隔離され、非接触型の生活を余儀なくされてもやむを得ない。大人が非接触型の生活をするのも致し方ない。
しかし、こどもの重症化率は低いと言われている。確かにこどもが亡くなった例もテレビで紹介された。しかし、こどもの感染率も死亡率も圧倒的に低い*。こどもは保育園、幼稚園、学校で一緒にあそび、まなび、接触を通して成育して行く必要がある。
そのため、新たな生活様式という画一的なものではなく、小さなこども、学童、青年というようにそれぞれの年齢層に合わせた生活様式のガイドラインを示すべきと思われる。
マスクをする、手を洗うことはやらなければならないが、社会的距離の確保は小さなこどもに関しては再考すべきだ。保育園でこどもが2mの間隔をあけて行動している映像が報道されているが、とても違和感を覚える。人間は動物である。かつて動物学者H・ヘディガーによって人間と距離について、個体距離と社会距離という2つの概念が示された。個体距離とは個体としての生物が自己と他者を分けるバランスの良い距離である。社会距離とは群として動物が社会を形成する距離をいう。それをエドワード・ホールが「かくれた次元」という本の中で人間に応用した。人と人との適切な距離は男と女、また人種や文化によっても異なると言われている。「社会的距離(ソーシャルディスタンス)」が今回重要だと指摘されている。これは患者の飛沫に影響を受けない距離という意味で使われているので、社会的距離と名付けられているが、これはH・ヘディガーやその距離を人間に応用したエドワード・ホールの個体距離の概念に近いと思われる。
問題はこどもにとって個体距離ゼロ(密接距離)の中でこそ安心・安全を感じることができるということである。ジョン・ボウルビーのアタッチメント(愛着)理論に示されるように、こども達は触れる、触れられる、いだかれる事によって安心を得て、外界へ挑戦できる。そして成長して行く。
そのような親密な関係をコロナウィルスの影響で悪いものだという意識を植え付けられてしまうことがとても心配だ。もともと距離とは人間関係と密接に結びつけられる。親しい関係は近しい関係といい、疎な関係は遠い関係という。今回の問題はコロナ対策のための一時的なライフスタイルといえるかもしれない。しかし2年も3年も続くとも言われており、それがこども達にとって習慣化してしまう事が心配だ。こどもたちにそれが刷り込まれないようにすることはとても重要である。
小さなこどもほど密接、親密が必要なのだ。こどもの成長のためにも、コロナウィルス対策が長期化すればするほど、年齢層別の行動ガイドラインをつくり、こども達が群れて、体をぶつけあってあそべるように、休園・休校はすみやかに全て解除すべきと思われる。
*「小児COVID-19症例は無症状〜軽症が多く、死亡例は少ない」
日本医師会COVID-19有識者会議「小児の新型コロナウイルス感染症に関する医学的知見の現状」より
仙田満(せんだみつる)
環境建築家。東京工業大学名誉教授、こども環境学会代表理事。日本建築学会会長、日本建築家協会会長、こども環境学会会長、日本学術会議会員などを歴任。長年、こどもの成育環境のデザインを中心とした研究、設計に携わり、愛知県児童総合センター、富山県こどもみらい館、広島市民球場、国際教養大学中島記念図書館などを設計。著書に『こどもとあそび』(岩波書店)、『こどものあそび環境』(筑摩書房・鹿島出版会)、『こどもの庭』(世界文化社)、『人が集まる建築』(講談社現代新書)、『子どもを育む環境 蝕む環境』(朝日新聞出版) 等。