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2019年度(第15回)こども環境学会賞の発表
2019年度(第15回)こども環境学会賞の発表
2020 年4 月5日
顕彰委員会委員長 高木真人
論文・著作賞選考委員長 高橋勝
デザイン賞選考委員長 石井賢俊
活動賞選考委員長 神谷明宏
自治体施策賞選考委員長 宮本照嗣
2019年5月より公募致しましたこども環境学会の学会賞につきましては、2019年10月末までに論文・著作賞11件、デザイン賞11件、活動賞2件、自治体施策賞1件のご応募をいただきました。
選考委員による厳正な審査の結果、論文・著作賞1件、論文・著作奨励賞1件、デザイン賞2件、デザイン奨励賞4件、活動賞2件、自治体施策奨励賞1件、以上合計11件が選定されました。
受賞者および講評は以下の通りです。(順不同)
《論文・著作賞》
秋田喜代美、石田佳織、辻谷真知子、宮田まり子、宮本雄太
『園庭を豊かな育ちの場に――質向上のためのヒントと事例』(㈱ひかりのくに、2019年)
《論文・著作奨励賞》
矢田努・高木清江・仙田満
「都市公園(街区公園)における交流・利用・あそびに関する一連の研究――交流実態、整備類型および計画
条件整理を中心として」(2019年)
《デザイン賞》
松尾宙、松尾由希(一級建築士事務所アンブレ・アーキテクツ)
「だんだん」保内児童センター・保内保育所
《デザイン賞》
山下秀之、木村博幸、江尻憲泰、佐藤晃、山下真理子、大渕政明、武井奈津美(一級建築事務所山下研究室)
福祉型障がい児入所施設 まごころ学園
《デザイン奨励賞》
松山将勝(株式会社松山建築設計室)
お倉が浜kid'sクリニック
《デザイン奨励賞》
中川聡一郎(株式会社竹中工務店)、佐田野剛、柏田恭志、菅野貴行、山野裕太
ツムグテラス「大型商業施設内に空中庭園を持つ都市型保育園」
《デザイン奨励賞》
竹原義二(無有建築工房)、安家比呂志(社会福祉法人あけぼの会)
羽鷹池ひだまり保育園
《デザイン奨励賞》
脇正典(学校法人脇学園 認定こども園 松崎幼稚園)、青木茂(株式会社青木茂建築工房)
松崎幼稚園 遊戯室棟
《活動賞》
伊藤達矢、鈴木智香子、山崎日希(東京藝術大学)
稲庭彩和子、熊谷香寿美、河野佑美、渡邊祐子(東京都美術館)
「Museum Start あいうえの」ミュージアムを介した社会参加のデザイン
《活動賞》
NPO法人子どもの森づくり推進ネットワーク
どんぐりの絆で育む共生の心「JP子どもの森づくり運動東北復興グリーンウェイブ」
《活動奨励賞》
該当なし
《自治体施策賞》
該当なし
《自治体施策奨励賞》
福島市
福島市における「砂の遊びとアート」活動による復興と子育ち・子育ての環境づくり
以上が受賞されたものですが、選考に漏れた方々におかれましても受賞者に劣らないすぐれた学術活動や実践活動であることを申し添えますとともに、さらに一層の活躍を祈念いたします。また更に多くの会員の皆様が次回の学会賞に応募されますことを期待いたします。
【こども環境・論文・著作賞】
《総評》
今回の応募は、著作3編、論文7編の合計11編である。昨年度の応募総数が10編であったことを考え合わせると、ここ数年は、10編前後の応募が続いていることになる。本学会での学術面での活発な活動と成果が途切れることなく見られることは、大変喜ばしいことである。
上記のように11編の応募ではあったが、そのうち2編は同一執筆者によるものであることから、選考内規により、自ら応募した著作を残し、事務局推薦の論文は選考から外すこととした。10編の著作・論文を、7名の選考委員全員に7~8編ずつ査読してもらい、10点満点で採点した結果とその詳細なコメントを提出して頂いた。さらに一堂に会した選考委員会を開催し、厳正かつ率直な意見交換を行った上で、論文著作賞1編と奨励賞1編を下記のように選出した。
今回の応募作品10編の研究テーマを見ると、子どもの遊びを保障する保育施設の園庭デザインに関する研究、都市公園の活性化に向けた交流、利用、遊びに関する研究、幼児の心の安定と活動的な生存力を高める手立てに関する研究、教室に立ち机を導入することによる身体活動を活性化させる研究、仕組まれた空間ではなく、自然のなかで子どもが試行錯誤して生活体験する里山学校の実践等、子どもの成育に関わるさまざまな観点から問題が取り上げられ、重層的な環境研究のなかで考察されていることがわかる。こうした研究テーマの多様性からは、子どもの成育環境をめぐる領域横断的な研究と実践を強力に推進してきた本学会の特長がよく見えてくるように思われる。
(論文・著作賞選考委員長 高橋 勝)
《論文・著作賞》
秋田喜代美、石田佳織、辻谷真知子、宮田まり子、宮本雄太
『園庭を豊かな育ちの場に――質向上のためのヒントと事例』(㈱ひかりのくに、2019年)
本書は、全国1740の保育施設からの質問紙調査結果及び訪問調査によるデータ分析に基づき、子どもが遊び、育つ身近な場所としての園庭、そして拡張された園庭としての地域の望ましい在り方を、遊び、自然、植物、動物、遊具、持続可能な社会、生物多様性等の視点から考察し、その結果に基づく具体的な提案を試みたものである。第1章では、子どもの遊びを保障する「園庭と拡張された園庭」の質が理論的に考察され、第2章では、園庭の物理的環境条件として、生物多様性を学ぶ場の重要性が指摘される。さらに、保育に求められる条件として、子どもの経験や育ちという志向性の質、特に園庭のルール、子どもの好きな遊び、地域や保護者との関わりという「拡張された園庭」等の重要性が指摘される。第3章では、読者の園庭環境と照らし合わせながら、自園でもできる改善方策が数多くの具体的事例を通して示されている。
全国レベルの調査結果及び考察と、それに基づく多面的な視点からの実践的な提案との結合が実に見事で、厳密な学術研究と日常的実践との実り豊かな統合作品ともいえる。本研究は、園庭という、ごくありふれた場所も、こども環境学研究という照明を当てると、限りなく奥深い世界が開示されるという可能性を如実に示した優れた研究成果である。
以上の理由により、選考委員会では、全委員一致して本書を論文著作賞に決定した。
(高橋 勝)
《論文・著作奨励賞》
矢田努・高木清江・仙田満
「都市公園(街区公園)における交流・利用・あそびに関する一連の研究――交流実態、整備類型および計画
条件整理を中心として」(2019年)
本論文は、本学会誌掲載論文4編に別の学会誌掲載論文1編を加えた上で、さらに「序章・結論」の論考を加筆してまとめられた重厚な論文集である。論文集の全体を貫く研究主題は、子どもを元気にする環境づくりであり、まちの空間(都市公園)における人々の交流、利用、あそびの活性化という3つの指標を通して、子どもをより活動的で元気にする方策を探りあてようとするものである。第1章では、利用者インタビューに基づき、公園における交流の実態と交流空間としての公園の評価を行い、交流要因に関する仮説の抽出を行った。都市公園では、減少する利用数の中で高い交流発生性を実現できる方策が求められるのではないか、という仮説である。第2章では、利用、交流、あそびの実態調査に基づき、子どものあそび、大人の交流、及び子どものあそびと交流を基軸とした公園整備類型を提示している。ここに、公園の利用、子どものあそび、交流を基軸とした公園の整備計画の骨格ができ上がる。第3章及び第4章では、公園利用・交流実態調査によって得られた利用人数データと、あそび実態調査により得られたあそび行為数データのそれぞれの詳細な分析を通して、子どもの利用とあそび行為発生性を高める都市公園の設計条件が具体的に提示される。
予備調査1年、本調査1年の期間をかけて行われた上記の実態調査の結果は、公園の利用、あそび行為発生性、交流発生性という客観的根拠をもって、都市公園設計計画に不可欠な条件を提示している。本論文は、子どもを元気にする都市公園設計の具体的条件とは何かという著者たちの思いが、厳密な実証的手続きに支えられることで、説得力のある提言にまで高められた作品であるばかりでなく、こども環境学研究の質の高さを
世に示しえた優れた研究成果ともいえるものである。
以上の理由により、選考委員会では、全委員一致して本論文を奨励賞に決定した。
(高橋 勝)
【こども環境・デザイン賞】
《総評》
こども環境学会デザイン賞は子どもの成長を支える建築、造園、遊具、プロダクト、絵本、グラフィックス等さまざまなデザイン領域からの優秀なデザイン作品を表彰するものである。15回目のデザイン賞である今年度は応募作品11点について9名の選考委員がデザイン審査を行った。
本デザイン賞選考委員は、環境建築学、保育専門家、建築家、住居学、スポーツ環境学、プロダクトデザインなど多様な領域の専門家によって構成されているが、今回の審査会においても選考委員各自の視点からの活発な討議をもとに適切な選考が出来たと思う。
11点の応募作品から、先ず書類審査で9点を選出して複数の選考委員が各作品現場に行き、作者からの説明と園運営者からの説明を受けつつ作品にかかわるこどもたちの生活の様子を見てその作品を検討した。そしてその報告書を基に選考委員合同による最終審査会を行い、デザイン賞2点、奨励賞4点を決定した。各受賞作品は、こどもの視点を大切にしたデザイン理念をベースとして創造的かつ社会的貢献度が高い環境デザイン
を構築している。
デザイン賞、奨励賞を獲得された作者に敬意を表し、今後の活躍を期待するとともに、本デザイン賞に応募および推薦をしてくださった皆様に深く感謝したい。あわせてこども環境デザインに関わっておられる方々の本デザイン賞への積極的なご参加を切にお願いしたい。
(デザイン賞選考委員長 石井 賢俊)
《デザイン賞》
松尾宙、松尾由希(一級建築士事務所アンブレ・アーキテクツ)
「だんだん」保内児童センター・保内保育所
愛媛県西端八幡浜市にある本施設は、0歳時から18歳までが利用する児童センターと老朽化した3つの保育所を統合した220名の保育所が一体となった複合施設である。「安心な環境で子どもの主体的な活動を見守る」ということを計画理念とし、地域の景観との調和を木造平屋のだんだん屋根やハイサイド連窓で表現しつつ、その内部のきめ細やかな空間の配置や構成には目を見張るものがある。
児童センターにおいては、開口部の広さに訪れる人々を受け入れる明るさや開放感があり、足を踏み入れると様々な年齢の子どもの居場所が無理なくかつ巧みにゾーニングされている。交流広場を挟んでの保育所は、だんだん屋根の効果がよく活かされている。建物の中央に乳児用の中庭があり、開放的なほふく室に面している。奥の保育室は庇が伸びて天井が徐々に低くなることで、乳児にとっては守られているような安心感の
ある空間となっている。一方、広い園庭に面している2歳から5歳までの保育室は、庇の伸びるデッキと一体的な作りとなっていて気持ちが良い。中庭に面した教室をつなぐ廊下部は、最も天井が高い箇所にあたり、開放的な空間の中で食事や創作等様々活用できるようになっている。保育室内の空間も非常によく考えられており、子どもの生活や遊びを大切にして、その展開や欲求に応じて有機的に空間を活用することが可能な
作りとなっている。
本建築は、「安心な環境で子どもの主体的な活動を見守る」という理念に貫かれた配慮の行き届いた設計であり、こども環境に関わる多くの方に周知したく存じます。
(鮫島 良一)
《デザイン賞》
山下秀之、木村博幸、江尻憲泰、佐藤晃、山下真理子、大渕政明、武井奈津美(一級建築事務所山下研究室)
福祉型障がい児入所施設 まごころ学園
新潟県長岡市にある福祉型障がい児入所施設「まごころ学園」は、折版式の屋根を有し、地元である出雲崎町の妻入りの民家の屋根を標榜させるデザインとして、この地域の伝統を感じさせる。
また、障がい児施設としては異例の木質空間を具現化し、回廊性を有する円環構成として独特のアメニティーを有している。施設は合目的性、規範性、機能性を満たしながらもそれを覆い隠し、変化に富んだ居心地の良い日常的な生活空間をつくり出すことに成功し充分なQOLを確保した。
今後はこの施設をプラットホームとして利用者(提供者)が工夫を重ねて、より快適な入居者の生活が具現化されることが望まれる。
本建築はそのデザイン理念、創造性、造形性、こども視点の設計、技術力、先行・実験的姿勢、地域文化への配慮など全ての必要条件を充分に満たし、明確なグランドデザインから実際のディティールまで首尾一貫したポリシーが見られる。従って将来の日本の施設の先行的モデルとして高く評価されるものであり、こども環境学会デザイン賞に相応しい優れた作品として評価されるものである。
(福岡 孝純)
《デザイン奨励賞》
松山将勝(株式会社松山建築設計室)
お倉が浜kid'sクリニック
ひとつながりの空間の中で、小児科診療所・病児保育室・調剤薬局が展開された施設の提案である。
交通量の多い国道沿いと閑静な住宅街に挟まれた敷地に建つ建物は、長方形平面の四方を曲線で切り取り、残された余白の部分に多種多様な木々を配置し周辺環境を整えている。この湾曲した外部空間が建築のカタチを特徴づけ、街のランドマークとしても成立している点は好感が持てた。
平面は、診察室を挟んで東西に待合室と病児保育室が川の字に並ぶ。うまく動線が使い分けられ一人の医師でもカバーできる平面計画は高く評価できる。インテリアについても家具配置や色使いもよく検討され、空間のスケール感を生かしている。しかし、子どもが思い切り身体を動かして遊ぶには少し狭く、遊びにブレーキがかかってしまうように見受けられた点が気になった。外と内が視覚的につながっているが、国道沿いの境界線の扱いにもう一工夫があれば見るためだけの庭とならず、外部と内部の連続感が際立ったのではないかと感じた。
地方における建築の取り組み方や新しいタイプの病児保育を提案している点を評価したい。
(竹原 義二)
《デザイン奨励賞》
中川聡一郎(株式会社竹中工務店)、佐田野剛、柏田恭志、菅野貴行、山野裕太
ツムグテラス「大型商業施設内に空中庭園を持つ都市型保育園」
千葉県の都市中心部の商業施設内に建てられた2094㎡の本保育園は四角い400㎡の人工芝の中庭を中心としてシンプルな造形で構成されている。保育園を商業施設の2階に上げたことで防犯に対応した安全性も確保されてこどもの生活空間のハザードも見当たらない。さらに緻密なプランニングと保育カリュキュラムで待機児童の解消にも対応しようと計画している。(将来的に0歳児から5歳児まで400名の保育を予定して
いる)保育時間内にこどもたちは階下のカフェやお肉屋さんの協力で実践的なお店屋さんゴッコを日本語と英語で体験していた。商業施設の上なので送迎の保護者とのアクセスが良くできている。12の全ての教室から幼児が走り回れる開放的な中庭にストレートに飛び出していけるプランニングとしたことは、こどものリラックス感、運動遊びの増加に繋がっている。
建物は近隣に配慮して低くしてあるが、こどもたちの遊び声や物音は中庭の空に放たれるので、遠慮なく元気に遊べる。四角形の中庭を取り囲む2段のひな壇型のベンチは、こどもたちがずらりとすわって中庭中央の遊びや演技を4辺から応援合戦するイベント性も演出できる。
また、経済的負担を低減化した構造、施工計画で8,5ヶ月の短工期を実現して周辺環境への影響を低減させている。
都市型保育園における、こどもの心の活性化、運動遊び、セキュリテイ、送迎者の利便性、をバランス良く確保するひとつの原型として具現化した本園は奨励賞にふさわしい貴重な作品である。
(石井 賢俊)
《デザイン奨励賞》
竹原義二(無有建築工房)、安家比呂志(社会福祉法人あけぼの会)
羽鷹池ひだまり保育園
羽高池公園の中に立つ4階建ての保育園。公園自体は十分広いのであるが、敷地として設定されている部分は非常に限られている。そこで保育園は4階建てになることを余儀なくされ、最上階と地上を園庭として使用していた。上下階を繋ぐ内部階段が、子供達が自由に上下できるような比較的ゆるやかな階段として設計されているのが良い。訪れた時も子供達が階段を自由に駆け下りていたのが印象的であった。階段室と教室の間の壁にはそこここに窓が設えられ、他のクラスの様子が垣間見える。それぞれの階は羽鷹池に面してテラスが設けられ、教室からテラスに出て他の教室に行き来できるようになっているのも良かった。テラスからは、子供の背丈ほどの小さな窓を通して中の様子が見え、工夫が感じられた。
テラスにつながる外部避難階段が、避難の時にしか使わない想定で設計されていたが、ここも内部階段と同様に子供達の外部の回遊動線として使えると、もっと遊びの幅が広がったであろう。入り口からの階段の見え方もシンボリックであるだけに意外に感じた。
外観は、形態と仕上げで細かく分節され、比較的大きな建築が小さいボリュームの集合に見える工夫がなされ、楽しげであった。
(手塚 由比)
《デザイン奨励賞》
脇正典(学校法人脇学園 認定こども園 松崎幼稚園)、青木茂(株式会社青木茂建築工房)
松崎幼稚園 遊戯室棟
幼稚園型認定こども園・松崎幼稚園は、大正7年から100年以上続いてきた地域を代表する歴史ある幼稚園で、敷地はJR防府駅から徒歩15分内外であり、低層住宅が林立する閑静な環境に立地している(敷地面積:4,562.04㎡)。審査対象施設は園の100周年記念事業として新たに整備された築100年超の木造家屋を遊戯室兼ランチルームとして改修した遊戯室棟である(延床面積:370.42㎡)。古民家の耐震性能を確保しながら、その建築をスケルトン化して再生させ、それを新たな鉄骨造の大空間で覆ったハウスインハウス形式の遊戯室棟で、母屋と蔵を柱や屋根の一部、壁などを巧に残しながら、フラットな床で開放でユニークな遊戯室の創造に成功している。
審査では、古民家を独自の手法により再生することで、単に、機能的な遊戯室・ランチルームを超えた、地域の生活文化や歴史を肌身で感じながら、こどもたちが育つことが可能な豊かな空間が提供されている点や、その古民家を両切妻がガラスで視覚的に開放された鉄骨造の明るい大空間で覆うことで全天候、オールシーズンで利用でき、高い機能性・快適性を確保している点が評価された。また、屋根と壁を一体化したモダンな家形の外観と、その中にガラス越しに見える古民家との対比、そして、それが道路沿に開かれて配置されていることにより、地域にこどもたちのための新たなシンボル的空間を醸成していることも評価された。
しかしながら、本遊戯棟と園庭を挟んで西側に対峙する講堂が、全面開放可能な開口部と、軒の深い木製テラスにより、豊な中間領域を獲得しているのに対して、遊戯室棟の西側妻面の開口部が、視覚的には全面ガラスで開放されているものの、身体的には完全に閉じていて、こどもたちが出入りできないことや、開口部の屋根の軒の出がほとんどないため中間領域も形成されていないことで、こどもたちのあそびが園庭との間で
誘発されにくい環境となっている点が残念であった。また、遊戯室棟の内部空間には既存の座敷や蔵を丁寧に活用した茶室や図書コーナーなどが、魅力的に計画されている点が評価されたが、その反面、古民家が本来、生活空間として持っている既存の縁側や土間空間が再現されておらず、広い面積の遊戯室床面を確保するために、すべて均質なフローリングでフラットに仕上げられている点については、こどもたちの生活空間体験という点でやや気になった。
(佐久間 治)
【こども環境・活動賞】
《総評》
本年度は活動賞への応募総数が2件と過去最低の応募数となってしまいました。しかし、応募された活動内容は過去最高といえるほど、その分野では成果のある実践活動でした。
審査結果はどちらの応募についても活動賞受賞となりました。審査にあたられた多くの方が「従来には無かった目のつけどころをもった活動で評価に値する」「活動歴は浅いが今後の活動展開に大きな期待がもてる」「この活動を起点に多くの領域への波及的な効果が見込める」等の意見を掲げ、その活動内容について称賛の意を示されました。応募作の詳しい概要は審査員を代表した方々にお譲りするとして、委員会として何度も申し上げてきた、単にこどもが参加者となった一過性のイベント的な活動ではなく、大学等の教育機関が主体となった活動であっても地域との深い連携が見られ、エビデンスを持った継続性のある先駆的な活動に関する応募であった事を大変価値があると思っています。
昨年度より、実践的な活動を展開している組織・団体の主活動や発表の時期と応募期間との重複を避け、新たな応募期間を設けましたので、今回の応募を迷って見送られた皆さまの活動につきましても、積極的に挑戦していただきたいと思っております。
(活動賞選考委員長 神谷 明宏)
《活動賞》
伊藤達矢、鈴木智香子、山崎日希(東京藝術大学)
稲庭彩和子、熊谷香寿美、河野佑美、渡邊祐子(東京都美術館)
「Museum Start あいうえの」ミュージアムを介した社会参加のデザイン
アートをテーマにする子ども主体のワークショップはすでに全国で展開されているが、1.5キロ四方の徒歩圏にある9つの文化教育施設が存在する地域特性を活かし、さらに各施設のもつ特性も十分に発揮しながら連携協働している活動である。
子どもが主体的に参加し、主体的に遊び・学ぶ姿勢に寄り添った取組みにより、子ども主体の実践活動を生み出す新しい文化教育活動として高く評価された。特に、現代社会の課題として、このような芸術系の作品などに触れる機会が少なくならざるを得ない貧困家庭や養護施設の子どもたちに、外部団体とも連携して
アートに触れる機会をつくり、そうした状況を克服して子どもたちの承認欲求に応えて自己肯定感を育む取組みやダイバーシティプログラムによって困難をかかえる子ども達への支援にむかう姿勢に多大な共感を覚える。また関心ある大人が子どもたちを受け入れる「きく力」を育むファシリテータとしての学びを展開した後、3年を上限とするファシリテータ経験を積めるという仕組みは、多くの大人が世代や性別を超えて子どもの学びに参加できる場の提供であり、こうした取組みが全国に増えていくことを期待したい。
(小澤 紀美子)
《活動賞》
NPO法人子どもの森づくり推進ネットワーク
どんぐりの絆で育む共生の心「JP子どもの森づくり運動東北復興グリーンウェイブ」
この活動は、被災地の子ども達が拾ったどんぐりを全国の活動参加園に届け、受け取った園児達が園庭にどんぐりを植えて苗木を育て、その苗木を3年目に被災地へ送り返してもらい、東北の園児達が地元に植樹するというものである。つまり、子どもの手から手へと受け継がれるESD活動である。
始まりは「東日本大震災」の翌年2012年、岩手県山田町で子どもたちが拾ったどんぐりが全国に届けられたことからである。2014年には、山田町に戻った苗木が初めて植樹された。以来、毎年100本の苗木が山田町に届けられている。2019年10月現在、この活動は全国で94園の保育所・幼稚園・こども園に広がり、毎年約5000名の子ども達が活動している。
この活動への授賞は、これまでの継続性を評価するだけでなく、今後の継続を期待するという意味も込められている。参加した子ども達が大人になり、東北の復興に自らの手で参加できたことを実感する日が来ることによって、本当の意味で幼児期からのESD活動の成果が生まれるのではないだろうか。今後、さらなる継続と活動の広がりに、大きな意義があると考え、期待するものである。
(北方 美穂)
【こども環境・自治体施策賞】
《総評》
こどもを取り巻く環境には、様々な分野があり、様々な主体が関わっています。
その中で自治体は子どもの環境に関して、自らの力で関わって変化させることも、他の様々な主体を支援あるいは協働して活動を強化することも、理念・行動を示し、規制・誘導することで、市民・コミュニティ・様々な組織の意識を高め、行動を変容させることも可能です。
子どもが置かれている状況は地域により異なるとともに、日々変化していきます。
「こども環境自治体施策賞」は、地域に根差した行政だから可能となる優良な施策を見出して顕彰することで、こども環境に取り組む自治体の施策を社会に示し、施策を産み出し実践した勇気・努力に報いることで、当該施策のさらなる発展と、他の自治体におけるこども環境改善施策の活発化を期するものです。
今年度受賞となった施策は、回を重ねて実績を積み重ねる中で、協力・連携の輪を構築することにより、行政施策としての価値を高めているものです。
会員諸氏の推薦により、こども環境に関わる自治体の創意あふれる施策が、社会の中で認知されてゆくように、これからも優良施策の発見・推薦を期待しています。
(宮本 照嗣)
《自治体施策奨励賞》
福島市
福島市における「砂の遊びとアート」活動による復興と子育ち・子育ての環境づくり
2011年の東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故は、福島の子どもたちから外遊びの機会を奪った。外遊びの中でもとりわけ砂や土に直接触れることは忌避されたが、福島県内ではいくつかの自治体や団体が、比較的早い時期から屋内砂場を設置して、子どもたちの砂に触れる機会を保障してきた。
今回受賞の対象となった「サンドアート・フェスティバル」事業は、震災後の福島の子どもたちが抱える諸課題(運動不足、砂や大地に触れる機会の減少など)に応えるため、福島市が2015年から毎年開催してきたものである。年によって開きはあるが、毎回5千人前後の親子が集い、福島市内の総合公園で砂像づくりなどの砂遊びを楽しみ、楽しんだあとの砂は市内の保育所・学校に提供し、子どもたちの砂に親しむ機会の確保に
寄与してきた。
5年間続くこの事業は福島市の子ども・子育て支援施策のキー事業として根付いており、震災後の子どもの遊び環境の復興・創出に大いに意義のあるものとして、「こども環境自治体施策奨励賞」にふさわしいと考える。
(河原 啓二)
【各賞の対象と審査委員】
(1)こども環境論文・著作賞
近年中に完成し発表された研究論文および著作出版物であって、こども環境学の進歩に寄与する優れたもの。
選考委員:
委員長:高橋勝(横浜国立大学名誉教授・教育哲学)
委員:織田正昭(福島学院大学教授・国際保健)、河原啓二(福島県県南保健福祉事務所所長・保健)、住田正樹(放送大学名誉教授・発達社会学)、福岡孝純(日本女子体育大学招聘教授・スポーツ環境)、大谷由紀子先生(摂南大学教授・建築学)、仲綾子先生(東洋大学准教授・建築学)
(2)こども環境デザイン賞
近年中にデザインされた環境作品(建築・ランドスケープ・インテリア・遊具・家具・グラフィックその他)であり、こども環境学的見地からも高い水準が認められる独創的なもので、子どもの成育に資することが認められるすぐれた環境デザイン。
選考委員:
委員長:石井賢俊(NIDO・プロダクトデザイン)
委 員:佐久間治(九州工業大学教授・建築学)、手塚由比(手塚建築研究所・建築デザイン)、小池孝子(東京家政学院大学准教授・住居計画学)、鮫島良一(鶴見大学短期大学部講師、同附属幼稚園園長・彫刻家), 竹原義二(摂南大学教授・無有建築工房・建築家)、千代章一郎(広島大学准教授、建築学)、福岡孝純(日本女子体育大学招聘教授・スポーツ環境)、松本直司(名古屋工業大学名誉教授・建築学)
(3)こども環境活動賞
こども環境に寄与する、上記以外の活動(施設運営・行政施策・社会活動・その他)であって、近年中に完成した業績および継続的な活動によってその成果が認められた活動。
選考委員:
委員長:神谷明宏(聖徳大学准教授・児童学)
委 員:井上美智子(大阪大谷大学教授・幼児教育)、北方美穂(日本フィンランド協会事業推進委員)、木下勇(千葉大学大学院教授)、小澤紀美子(東京学芸大学名誉教授・住環境教育、まちづくり教育)、四釜喜愛(食と森の保育園しかま副園長・幼児教育)、新田新一郎((有)プランニング開)
(4) こども環境自治体施策賞
こども環境に寄与する行政施策であって、近年に完成、完了した施策、若しくは継続中の施策でその成果が認められるもの、又は近年に着手された施策で、顕著な成果が生じ始めていると認められるもの。
選考委員:
委員長:宮本照嗣(市民参加まちづくりパートナー)
委 員:五十嵐隆(国立成育医療研究センター理事長)、佐久間治(九州工業大学教授・建築学)、高木真人(京都工芸繊維大学准教授・建築学)、中島興世(子育てと教育を考える首長の会事務局長)、三輪律江(横浜市立大学学術院准教授)、松本直司(名古屋工業大学名誉教授・建築学)、河原啓二(福島県県南保健福祉事務所所長・保健)